№10.トイレその前に!


今回はトイレの話しである。お昼休みに食事をしながら読むような話題ではないのでそんな方は後で読んでもらったほうが無難だと思う。


日本人の感性で言うと「クアラルンプールのトイレは一部の例外を除き殆ど汚い!」と言っても過言ではないと思う。因みに一部の例外とは高級ホテルと空港である。どちらも外国人がマレーシアに来て「なんだこの国は~!」とならないように国際レベルに合わせて清掃が行き届いているのであろう。ホテルで言えばシャングリラ、リージェント、イスタナ、ニッコーホテル等々私も旅行でKLに来ていた頃はよく利用させてもらった。綺麗で高級感もあり用を足した後ロビーで長い時間休憩しても無料だし、帰りにはドアーを開けてくれてお礼まで言ってくれるのである。トイレを無断で使われて「ありがとうこざいました」も間抜けな話しだが、セントラルマーケットなどのトイレで途方に暮れてしまったことのある身にはまさにオアシスである。国際空港も個室は非常に広くマレー式と洋式が半々くらいで安心して利用できる所だ。LRT(高架電車)の駅のトイレも開通した当初はその例外のひとつであったが、最近は電車に乗る機会が殆ど無いので私は実体を知らない。兎に角KLの街中ではホテルと空港以外のパブリックなスペースで綺麗なトイレを探すのは至極困難だ。「そんなことは無い!」と言われる方が居ればあえて反論はしないが今後の為に何処のトイレが綺麗か是非教えて頂きたいくらいだ。


クアラルンプールにある標準的な公共のトイレを説明しておこう。入り口には昔の小学校の机のようなテーブルがあり、どう見てもお金がなさそうな(失礼!)オバサンかオジサンが椅子に座って皿とか灰皿で入場料金20Cent~30Cent(日本円で10円程度)を徴収している。便器自体は日本式のそれと似ているが金隠しの部分が無く足置きのような部分がある。また、トイレットペーパーホルダーなど無い代わり横手に短いホースがあり水道に繋がっている。これは場所によっては水瓶と手桶なんてところもあるので要注意である。そして、ここが一番不快に感じるのだが、何処も例外なく床がビショビショに濡れているのである。「トイレットペーパーが無くてどうするのか?」などと思われる人はこのHPを見て頂いている方の中には居ないと思うが一応説明しておこう。この国にいる6~7割の人達(あえて民族は書きませんが)は基本的にはトイレットペーパーを使用せず、ホースから出る水と左手で後始末をするである。「ゲェーほんとかよ、汚ねぇ~!」なんて言うなかれ、ペーパーと水を比べれば水(または湯)を使用するほうがはるかに清潔なのは最近日本の公共施設(役場、病院、体育施設)などであるウォッシュレットが証明している。しかし、汚物に直接左手で触れる為清潔だとは感じられないのは無理も無い、現に彼等も左手で食事したり握手するのはご法度だし“不浄の手”として左手使用がかなり制限されているのも事実である。


私としては別に紙で拭こうが水で洗おうがどっちでも良いのであるが、水で床をビショビショに濡らすのは勘弁してほしいのだ。次の人は困るしデング熱などの悪い病気を運ぶ蚊の発生原因にもなりかねない。使用後のホースから漏れ出た水でビショビショになるのだと思うが、中にはどうしたらこれだけ水浸しになるのか不思議なくらい濡れている場合がある。常々疑問に思っていたこの真相を、ある時観光の名所でもある旧国立モスク近くのインド人街の公衆トイレで知ってしまった。近くの露店バザールの雑踏から来る人達で混んでいたその公衆トイレに入ると、なにやら個室の方から勢い良く水を噴射する音が聞こえて来た。清掃中かなと良く見ると扉にシャツやズボンが引っ掛けてある。そう、中でシャワーを浴びているのである。時折「ハ~ッ」とか「フ~」とか気持ち良さそうな声が聞こえて来るので間違い無い。あんな汚い個室でよりによってシャワーを浴びるなんて...しばし絶句であった。しかし、「こんなことは、あまり豊でない人達が住む地域だけのことだろうと」思っていた。ところが今度はBANGSARと言う金持ちが集まる地区でも同じ事を経験してしまった。その後、ことある毎にトイレを良く観察していると公衆のトイレには何とシャワー禁止のマークが張ってあるところが結構あるではないか。やっぱり公衆トイレを風呂代わりにしている輩はいるのである。いくら熱帯地域で年中汗をかくからといっても、現地人がトイレでシャワーを浴びているのを観光客に気が付かれでもすればイメージガタ落ちである。政府も観光産業、特に日本人誘致にチカラを入れているのであるならばトイレ美化キャンペーンでもやったほうが良いのではないかと思う。


「公衆トイレを見ればその国のレベルが分かる」と私は思う。それは単純に清潔意識だけの問題ではなく、社会参加意識や他人への思いやりがそこに表れるからだ。マレーシアは珍しく多民族国家の成功例であるが決して民族間の共存意識が良く作用しているからだとは言い難い。他人への無関心さが民族間の衝突を回避していると分析する専門家もいるようだが私も賛成だ。マレーシアのトイレが汚いのはこの“他人への無関心さ”が原因なのだと思う。“自分さえ良ければ後はどうなっても関係無い”と言うその姿勢がこの国をもう一歩垢抜けさせない理由の一つなのだ。まあ、良く考えれば日本の公衆便所で綺麗なところを探すのも大変だし、終電間際の駅のトイレなんてマレーシア以下かもしれない。ゴミの不法投棄は日常茶飯事、タバコのポイ捨に到っては我が国は世界一なのではないだろうか、我々日本人も“自分さえ良ければ後はどうなっても関係無い”と言う自己中心的な姿勢は同じなのかも知れない。両国家共そろそろシンガポール的厳しさを導入すべきなのかもしれない。


最後に、私個人としては博物館などのトイレにある先端に放水レバーの付いた新型マレー式ホースは左手の使用不要で非常に気に入っていることを付け加えておきたい。それと、皆さんの中でKLを旅行で歩き回る予定の方はトイレ計画だけは慎重に立てることを強くお薦めしたいと思う。


(№10.トイレその前に! おわり)

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