№6.国際通勤


今、東京でこれを書き始めている。今月(2000年10月)は理由あって二回も東京に来てしまった。つい一週間前に接待等でボロボロになってKLに戻ったばかりだが重要顧客より「大切な会議なので万難を排して出席せよ!」との連絡を受けて急遽再訪日である。


CSLの顧客は今のところ全て日本ばかりなのでマレーシアにいるときは特別なことでもない限り毎日事務所でデスクワークだ。たまの出張は気分転換になるし普段会えない人とも面会するチャンスがあるので楽しみでもある。日本に出張する頻度は来マ当初は月に一度、段々回数を減らしそのうちに2~3ヶ月に一度のペースにしようと考えていたのだが諸事情によりなかなかそうは問屋が卸してくれない。酷い時はトランジットではあるが飛行機を<クアラルンプール>-<シンガポール>-<関空>-<那覇>-<台北>-<香港>-<クアラルンプール>と乗り継いで2泊で帰って来るなんていうのもあった。今回出発前にパスポートを見直してみたら既にマレーシア-日本間を22回も往復していた、これで23回目である。こう何度も行ったり来たりしていると最近は“出張”と言うより“通勤”に近い感覚になって来ている。


私がいつもマイレージの都合で利用している日本航空のクアラルンプール-成田便は深夜KL発早朝成田着のJAL724と昼過ぎに成田出発のJAL723の日一往復しかない。(毎日KL出発便があるのは感謝すべきだが)別にマレーシアに帰って来る便はどうでも良いのだが、日本到着後即仕事となる早朝着便がかなり辛いのである。移動中にグッスリ睡眠をとれるほど旅慣れている訳でもなく、サービスで出される酒類を断ることが出来るほど自制がはたらくこともない、6時間強のミッドナイトフライトを窮屈なエコノミー席で読書、音楽、酒、うたた寝で過ごすのである。従って旅の初日からかなり疲労していることになる。成田に到着すると成田エクスプレス2号(7:46発)を待つために高い缶コーヒーをすすりながら空港内テレビで朝7時のNHKニュースを見るのがいつものパターンだ。日本に入国して最初に買うのが成田エクスプレスのチケットか缶コーヒーなのだが、マレーシア価格に慣れきっている状態で購入するので非常に高価なものを買っている気がして毎度ウンザリする。特にJRの切符はベラボウな値段に感じる、マレーシアでは国際空港からKLの中心地まで約70Kmを国際空港専用タクシーですら日本円に換算すると2,000円以下である。最近は一般タクシーの乗り入れも許可されたので今後は更に安くなるようだ。成田からタクシーなど拾ったらいったい東京までいくらかかるのだろう、マレーシアの工員さんレベルの月給を越えることは確かだろう。


成田エクスプレスに乗って約一時間午前9:00過ぎに東京駅に着く、通常は私が社長をしている飯田橋の自社事務所に直行し夕方まで事務処理をするのだが、体調に応じて早くホテルにチェックインしてテレビでも観て寝てしまうことも可能である。余談だが、不思議なことに日本滞在中はマレーシアでは殆ど観ないテレビをホテルでよく観る。ニュース、ドラマ、バラエティ、野球、いろいろやっているが一番面白いのはコマーシャルだ。なにしろテンポが速く音や色の使い方が洗練されていてストーリー性があり笑いの間も一流だ。日本で暮らしているときは感じなかったが日本のCMはコミックやコンピュータゲームと並び世界でもかなりハイレベルだと思う。話を戻そう、ホテルでテレビを観て寝てしまえる時は良いが、場合によっては訪日当日に客先に出向き打ち合わせをすることもある。事務所に置いてある背広に着替え顔を洗い歯を磨き髪の毛の寝癖を直し寝不足で重たい頭を抱えて出席する会議は辛いものである。こんな時難問や複雑な話は頭が受け付けない、やはり正確な判断や前向きな対処は良好な体調によってのみ生まれるのだと実感するのである。そんなことなら前日に到着して体調を整えれば良いと思われる方もいると思うが、気分的にも金銭的にも一日でもホテルに泊まる日数を少なくしたい私としては少々辛くても頑張ってしまうのである。顧客との会議も内容が充実していればそれなりに満足感もあり、それが儲け話だったりすれば疲れも吹っ飛び頭も冴えてくるのは何ともゲンキンなものだ。


「辛い、辛い」と書いてきたが夕方になれば余程のことが無い限り仕事から解放され自由の身になる。成田早朝着便の辛いところはこの時間迄で終りだ。後は睡魔が襲ってくるまでの僅かな時間を体力が許す限り自由を満喫するのである。本屋に行き最新情報を仕入れ、CD屋さんで日本モノをあさり、スーパーで日本酒とつまみを買い込みホテルにチェックインする。この時間になる頃には日本人にとってもバカ高いものの値段も気にならないくらい意識朦朧としているのかもしれない。シャワーを浴び寿司屋に行き「良くこの時間まで頑張ったなぁ」と特上寿司とビールなどを自分へのご褒美とした後狭いビジネスホテルの一室で目覚まし時計をセットしたとたんに気絶するのである。


来マ当初はこんな出張も楽しかったし、ウキウキしながら空港に行き飛行機に乗っていた気がする。が、最近はこんなパターンもそろそろ飽きて来たというのが正直なところだ。通勤や出張に「飽きた!」などと言うと語弊があるので「シンドくなった」と言いかえよう。いつも自分では変化していたいと心掛け、人生設計も子供の教育も他の人とは違っていたいと思い色々やっているつもりなのだが、その中ですらマンネリに陥ってしまうような行動パターンをとる自分が情けなく思う。自分では気が付かないが年齢が新しいものを拒んでいるのか、ただ単に自分の視野が狭いだけなのか。うむ、東京にいると何故か悲観的な思考パターンになってしまうのはどうしてだろう?長旅の疲れのせいかもしれない、早く家族の待つ広々としたマレーシアに戻らねば...。


最後に、今回の出張自体は“重要顧客”のありがたい取り計らいもあり様々な人と会う事が出来たし、久しぶりに昔の地元ライブハウスにも顔を出せて非常に充実した出張だったことを付け加えておきたい。


(№6.国際通勤 おわり)

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