№96. 「他人事意識」が日本を滅ぼす


2016年の参議院選挙、投票率が低い割には保守勢力が健闘して、個人的には好ましい結果となった。 先月(2016年6月)、期日前投票ができるタイミングでの東京出張だったので、選挙区は現政権与党の立候補者、比例代表は、 公示直前に出馬の意向を固めた、民間シンクタンクの社長でもあるジャーナリストA氏に投票してきた。 A氏の書籍やネット番組はけっこうフォローしていたが、直前まで「政治家になる意志はまったくない」と言っておられたので、KL発羽田行きの飛行機に乗る直前に見たネットニュースには、かなり驚いた。 いや、驚いたと云うより、なぜか、嬉しい反面、おいてきぼりを喰らったような、妙な感覚であった。 自国の安全保障やエネルギー政策を、自らの行動で語って、外務省や財務省の若手の覚醒を促してほしい。 敗戦後の占領政策の弊害や、その後のマスコミや知識人の実態を忌憚なく、国民に知らしめてほしい。 古来から持っている日本の良さ、そして、現代でも生きている日本人の素晴らしさも、大いに語ってほしい。 カネや名誉に翻弄され、何のために生きているのか分からなくなっている現代人に喝を入れてほしい。 A氏には、こんな期待を抱いてはいたが、ご本人が言っていたように、あくまでジャーナリストという立場で発信していくものだと思っていた。 しかし、公示直前、突然の出馬表明である。 「今の日本を、子供や孫の世代、そして、これから生まれてくる日本人に、そのままバトンタッチするワケにはいかない!!」 私もそう思う。そう思いながらも、日々、楽な方へと流さそうな自分がいる。 なので、残念ながら、完全に「おいてきぼりを喰らった」のだ。


現在の私自身は、戦後刷り込まれてきた自虐史観のくびきからは、とっくに解放されていて、改憲や自主防衛など「世界の常識、日本でもまったく問題無し」との認識だ。 もっと突っ込んだ言い方をすれば、「9条が戦後日本の平和を守ってきた」とか「平和安全法制整備法が成立すると戦争になる」とか言って、公安の監視対象団体と組んで騒いでる人達を見ると、 「平和はありがたいことだけど、平和過ぎるのも危険なことだな」と、つくづく思うのだ。 実際に平和を維持できた(拉致問題などもあり完全ではないが)理由は、外敵が憲法9条にひれ伏したワケではなく、自衛隊や米軍のような武力の存在が大きいわけだし、 他国との軍事同盟の目的は、戦争を始めるための謀議ではなく、戦争を抑止するためのものだ。 選挙直前、「自衛隊の予算は人を殺すための予算」などと言った衆議院議員が居たが、昔はともかく、災害派遣などで自衛隊に感謝する人が多い今、そんな発言を「さすが共産党、よく言った!」などと歓迎するバカは少ない。 しかし、実際に外敵が近くの海や空にウヨウヨ居るなかで、「自分の身は自分で守る」という、動物ですら本能的に知ってるようなことを、食物連鎖の頂点にいる人間が(一部だが)何故忘れてしまうのだろうか。 そういう人達は、かなり考えが足りないか、敵の味方なのか、とても不思議に思っていたが、ちょっと気をつけて情報をみてみると、ネット上にヒントが散らばっていた。 強引に言ってしまえば、それは「世代間闘争」そして、皆の「他人事意識」だ。これらは問題としては厄介だが、構造は意外と単純だ。


ちょっと前の平和安全法制騒ぎの頃、 マスコミでは若者達だけが、理想を掲げて、国会前などで抗議活動をしているような見せ方をしていた。 しかし、ネットで実態を見てみると、うしろの方の団塊の世代(全共闘世代?)のジジババ達の割合のほうが遥かに多いことに気付く。 この世代、物心がつく頃から、進駐軍の戦後教育政策が徹底されていたとは云え、このネット社会にあっても、未だに情報の正しい取捨選択方法を学ぶ気はないようだ。 兎にも角にも反権力、さすがに今では、本気で「革命だ!」なんて言っている人は少数派だが、権力や体制に対して抗う自分の姿が好きで、且つ、行動することによって、妙な知的欲求も満たせるのだろう。 別に明日の食べ物や寝ぐらに困っているワケでもない。 現役を退き、時間もあれば、小金も手に入れた。 しかし、このまま萎れて行くにはチト早い。 なにか心から情熱を傾けられるものが欲しい。 過去の同世代との連帯感も忘れられない。 そんななかで見つけてしまった、華やかで世間の耳目を集める「反体制、反権力」活動。 まさに「 青春よ、再び!」だ。 あろうことか「年金や医療費を国からタップリもらいながら」という矛盾を抱えながら、国会前や街頭で「反対!、反対!」とやっているのだ。 残念ながら、マスコミの注目度は若い世代ばかりで、ステージのセンターを取れぬ不満は多少残るが、忘れていた高揚感の再来に胸が震えていることだろう。 だが、この手の活動、若い世代は、飽きたらアッサリと止めるだけだ。 若い世代が活動に飽きたり、真実に目覚めたりして去り、マスコミの注目度が低くなったあとも、まだ頑張れるのだろうか??。 まあ、健康(医療費抑制)のために、静かに活動継続なら、それはそれで害は少ないが。。。 とにかく、世界に類を見ない高度成長を実質的に支えた先輩達を、こんなカタチで揶揄したくはないが、ひと昔前とは違い、今の安全保障環境は危機的状況なので、いい加減、思考停止の「お花畑思想」を押し付けるのは止めにして欲しい。 世界は動いているのだ。 長くはないとはいえ、私だって、せめて死ぬまで日本は平和な国でいてもらいたいし、死んだ後だって、日本が「中華人民共和国日本省」になるなんて状況は勘弁して欲しい。 この「世代間闘争」、確実に時間が解決するが、そんな悠長なことも言ってられない状況なのだ。


今回の参院選は、タイミングよく自分でも投票できたせいか、投票率が気になっていた。 結果は54.70%、辛うじて前回を上回ったが、1980年には74.54%もあったそうなので、低投票率と言っても良いだろう。 前述のような積極的な「お花畑」も困るが、この深刻な状況のなか、未だに「無関心」や「他人事意識」が多いのも考えものだ。 まあ、世の中の雰囲気が、表面上平和だとそういうものなのかも知れない。 大東亜戦争中などと違って、自分の身に災難が降りかかってこない限りは「無関心」を決め込むことも、「他人事」と割り切ることも可能な時代だからだ。 「沖縄に米軍基地は不要だ」と叫びながらも、基地がなくなることが想定外の人達や、 大地震が30年以内に70%の確率で発生すると言われているのに、企業の中枢機能を首都圏に集中させたままにしている人達は、現状がそのまま続くと思っていても、とりあえずは怒られない。 ただ、イギリスのEU離脱問題(Brexit)で「結局は残留の筈でしょ?」と思って投票に行かなかった残留派の人達や、 外国企業に買収されそうにもかかわらず、このまま静観していれば定年まで働けると思っていた某家電メーカーの人達は、もう「他人事」などと言ってられない。 降りかかってくる火の粉は、自分自身で振り払わないとならないからだ。 可哀想だが当事者意識を持たなかったツケは大きい。 多くのイギリス人はEU離脱決定を後悔(Bregret)し国民投票の再実施を求め、異国企業に買収された某家電メーカーの人達は戦力外通告に戦々兢々だ、「目の付け所」がイマイチだったのか。。。 一方、今は大丈夫なことでも、未来は何が起こるかわからない。 沖縄の米軍基地だって、アメリカの新大統領によっては、フィリピンのスービック基地やクラーク基地のように、撤退の可能性もゼロとは断言できない。 米軍撤退後、フィリピンがどうなったかを学ばないのは愚かなことだ。 国際的な仲裁をも無視するような彼の国と「酒を酌み交わし、話せばわかりあえる」なんて言う幼稚な意見はもうやめにしよう。 大地震の対応に至っては、発生する可能性が高い分深刻だ。 明日(30年後ではない)首都圏をM7クラスの地震が襲い、組織の中枢機能が麻痺したら、どうやって困難を乗り越えるつもりであろうか。 BCP(事業継続計画)を外部のコンサルタントに丸投げして、「弊社は対策済みです」などと報告に来る担当役員は、即刻、地位は低くとも当事者意識のある実務者に交代させたほうが良い。 未来の不作為犯を見極めることも大切なことだ。


今回、新たに選挙権を獲得した18歳、19歳の未成年の人達は、意外にも保守勢力に投票した人が多かったようだ。 この世代のメインの情報源は、新聞紙面や地上波のテレビでなく、ネットニュースやYoutube、そして双方向のSNSだ。 昔から朝日新聞一筋の頑固なオジさんや、昼のワイドショーしか観ないミーハーなオバさんとは異次元の情報空間で暮らしている。 そんな彼ら彼女らが、自らの長い人生を考えて投じた一票は貴重だ。 「政治家なんて誰がなっても同じだから投票には行かない」などと、したり顔でステレオタイプな意見を吐く、当事者意識のない年長者が持つ死票より、遥かに貴重だ。 是非当選者には、そんな貴重な若い人達の一票の重みを感じて、ホンネで政治活動してほしいものだ。 数十年後の事も考えるべき外国人労働者受け入れ問題。 言葉のトリックで騙されてはイケナイ財政出動とプライマリーバランスの問題。 自国の政策は自国で決められなくなるTPPの問題。 今回、与党が大勝したからって、安倍首相にフリーハンドを与えてよいワケではない。 そうかといって、ねじ曲がった現在のマスメディアを鵜呑みにするのも危険極まりない。 皆が自分のこと、自分の子供や孫のことだと、当事者意識をもって真剣に情報を集め、且つ、自分の頭で考える。 是々非々、それ以外になにがあるだろうか。 今回、ある意味、選挙を通じて、未成年の若い人達に教えられてしまった。 そして、自分の若い頃を思い出し、いかにテキトーに生きてきたかを、改めて考えさせられてしまった。 今回のコラムは誰かを責めるのが目的ではない。 単なる「自戒の巻」なのである。


「他人事意識」が日本を滅ぼす。
「他人事意識」が会社を滅ぼす。
「他人事意識」が家庭を滅ぼす。
「他人事意識」は自分も滅ぼす。

結局、あとでツケを払うのは自分自身ってことだ。


(№96. 「他人事意識」が日本を滅ぼす おわり)


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